ポジティブチェンジ・コーチング③自分たちに備わっているパワーに目覚める【組織開発】
ポジティブな逸脱を活かす
規格品の大量生産・大量販売が当たり前であった時代のマネジメントは、秩序と効率が重視され、組織の人々が画一化された行動様式を持つことに疑問を持つことは余りありませんでした。
ところが、現代の経営は「変化へ素早く対応すること」がとても大切です。
このような状況では最初から成功する方法論が明確でないまま、やりながら手直ししていくというアジャイル開発的な進め方が求められます。
要するに、やってみて・試してみて、そして整えるという進め方になります。
ところが秩序と効率の中で育ってきた管理者は、そのような「揺さぶり方」を学習していないのです。
下手すると揺さぶったはいいが着地しないとか、揺さぶってみたらうまくいかなかったということで元に戻した、ということもあるのです。
そうすると「どうせ、うまくいかんぞ!」というトラウマが根付いて、次に揺さぶるのはすごく難しい。
では、どのようなアプローチが役に立つのでしょうか。
それが「ポジティブな逸脱」を活用するマネジメントです。
「ポジティブな逸脱」を活用するマネジメント
逸脱(deviance)というのは、本筋や決められた枠から外れること[例えば、任務を逸脱する行為]、と説明されるように、通常はネガティブな意味で使われることが多い言葉です。
しかしながら、従来の当たり前が通用しなくなっている現在は、常に変化していく顧客や市場に直面している現場からの工夫を活用するマネジメントが求められます。
それが「ポジティブな逸脱」を活用するマネジメントです。
リチャード・タナ―・パスカルとジェリー・スターニンがHBR2000年5月号に寄稿している「ポジティブな逸脱:片隅の成功者から変革は始まる」を参考にしながら、ポジティブな逸脱とは何を考えてみましょう。
パスカルとスターニンは次のような事例を出してポジティブな逸脱を説明しています。
「アフリカのマリ共和国の農村では、ある深刻な問題に悩まされていた。それは子供たちの栄養失調である。そして、子供たちの間に栄養失調が広がっているのは呪術師のせいだと皆が信じて疑っていなかったのだ。この問題解決に取り組んでいたセーブ・ザ・チルドレンは、何とかこの問題を解決しようと努力していた。調べてみると、めったに病気にかからない子供たちがわずかながらも存在することを発見した。その子供の親たちはそうではない親たちとは異なる行動を取っていた。それは、毎日、子供に間食を与え、家族全員が石鹸で手を洗い、父親は食事の場に積極的に加わり、子供に医者の診断が必要だと思えば、家族にそのように進言していた。通常はその役割は祖父がする。これを聞いた村人たちは、この親と同じことをすれば呪いが解けると考え、さっそくこの(村の慣習とは異なる)型破りな方法を真似たところ、栄養失調だった子供は元気を取り戻したのだ。村人たちは新しい生活スタイルの伝道者になり、呪術師の呪いは解けていった。」
「ポジティブな逸脱:片隅の成功者から変革は始まる、リチャード・タナ―・パスカルとジェリー・スターニン」(参照:HBR2000年5月号)
これって、遠いアフリカのことでしょう、と思ってはいけません。
企業組織の中にもさまざまな呪い、迷信の類があります。
それを私たちは「業界の常識」とか「うちのやり方」と呼んでいます。
そんな企業組織の中でも、マリ共和国の元気な子供の親の例のように、ひっそりと自分ならではのやり方で成功を収めている人がいるのではないでしょうか。
これが、ポジティブな逸脱です。私たちは、それを「異端」と呼ばずに活用する術を知っているのでしょうか。
ベストプラクティスを学習する関係をつくる
ポジティブな逸脱の活用については注意することがあります。
それは「ベストプラクティスであるポジティブな逸脱の押し売り」は嫌われるというものです。
パスカルとスターニンはその事例として、バイオ医薬品メーカーの慢性喘息に効き目がある新薬(ゾレア)の販売を取り上げています。
この新薬はアレルギー専門医や小児科医が使うものですが、彼らは静脈注射を打つことに慣れていない。だから新薬は、当初に思ったほど普及しなかったのです。
ところがある地区で2人の女性がそれを解決する方法を考えつき、それにより医師や看護師、事務員たちの視野を広げることに成功し、顧客の獲得に成功していたのです。
会社も、そのことを知ることになりました。
ところが、このベストプラクティスを彼女たちの地区担当マネジャーが、他の地区マネジャーに電話で知らせたのです。
結果、その方法は上(マネジャー)から押し付けられた形になり、「その方法ではうまくいかない」とか、「自分たちは彼女たちとは違う」と主張するメンバーが続出し、その方法を実行に移す営業担当者はほとんどなく、普及に時間が掛かってしまったのです。
「ポジティブな逸脱:片隅の成功者から変革は始まる、リチャード・タナ―・パスカルとジェリー・スターニン」(参照:HBR2000年5月号)
このような学習の壁を乗り越えるのが、同僚などチームによる学習です。
さまざまな工夫を組織的に活かしていくには、私たちは対話によるチーム学習に習熟していくことが求められます。
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コラムの書き手:株式会社Being & Relationシニアパートナー波多江嘉之