ポジティブチェンジ・コーチング⑤ケースから学ぶポジティブチェンジ【組織開発】
テーマパークの経営に素人だった小巻亜弥さん(サンリオピューロランド館長、サンリオエンターテイメント社長)。
彼女は、来場者数が低迷し、赤字が続いていたテーマパーク「サンリオピューロランド」に着任し、5年で黒字化させるという“奇跡のV字回復”をけん引しました。
来場者数は2018年度に過去最高の219万人を記録します。
その手法は、社内の“コミュニケーションを見直す”という組織変革です。
社員全員と面談するなど「人を育む」施策を重ね、全員が自発的に動く組織へと変革させたのです。
(出典:『NHK総合[プロフェッショナル 仕事の流儀]キティ・マイメロ・シナモン:窮地のテーマパーク復活に挑む:2023年6月28日放送』)
サンリオピューロランドの再生戦略
当時のサンリオピューロランドの再生戦略的には以下のようなことが具体的施策としてあげられます。
1. 戦略キーワード「大人に刺さるカワイイ」
従来は小学生がターゲットであったが、大人女子をターゲットにしたテーマパークづくりへ変更。
2. 外部の異質なものとつながる
増田セバスチャン、ヒャダイン、MIKIKOを起用し従来のイベントの在り方を変える。
フードメニューを一新、フォトスポット設置。インスタ映えネット拡散で客が客を呼ぶ。
3. お土産はついでに買うものではなく「わざわざ買いに来るもの」
だから商品一つひとつに細部までこだわる。
4. 脇役だったキャラクターウサギのウィッシュミーメルの発見と活用
ショーの出番もなかったメル。でも、引きこもりから脱却するメルのストーリーに着目。
テーマパーク限定キャラとして再生。
5. 宝物社員を発見する。「効率」も大事だが「拘り」も大事
河原さんというカメラマンのオタクおじさん。この人のキャラクター愛が半端ない。
以前は浮いていた存在だったが、引き上げる。
河原さんもそれに答えて頑張る。河原さん企画の男性限定イベントは大成功。
『ポジティブリーダー』の5つの行動
小牧さんは、このような施策を従業員との対話の中で見つけ出しています。
全てにおいて、一人ひとりの思いを聴きだすのです。
テーマパーク経営は素人という認識が対話の推進力になっているのか、とにかく従業員と面談しまくりなのです。
面談の中で何をしたいのか、どうなりたいのかを聴き出しています。
○○さんにやらせてもし失敗したら、私が責任を取ればいいだけの話。
そして、最後の決め文句は「大丈夫やろう!」です。
ポジティブチェンジには、リーダーとして大切にすべき5つのアクションがあります。
小巻さんは、この5つを実践しているように見えます。
彼女は「日経ウーマン」が主催する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」を2020年に受賞していますが、審査員の早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄さんによると
「社内のコミュニケーションを見直し、人を育む組織変革で、今いる社員、今ある企業の資産で戦えることを証明して見せた。」
と評しています。
リーダーシップはその人の生き方である
小巻さんの組織の見方は「会社は人の集まり、そして人は感情の束でできている」。
経営者とは「人を知り、可能性を信じて、花開かせる人」。
「どんな時にがんばるのか、それを知って一人ひとりに対応する。信じて、支え、伸ばす。褒める、認める、承認する」。
「生きている醍醐味は人の夢を応援できること」というものです。
それは彼女の人生に深く根差した信条なのです。
公式に発表されていることから彼女の人生を覗いてみましょう。
小巻さんは東京で生まれの成城大学卒。1983年に株式会社サンリオに入社。
25才で結婚。34才、3男がお腹にいる時に2才の次男を事故で亡くす。母としての自信を無くし壊れてしまう。
37才の時に離婚。シングルマザーとして子育て中に乳がんで左乳房の全摘出。その後、子宮内膜症と子宮筋腫により子宮の全摘出。
生きていて良い理由が欲しくて化粧品会社で我武者羅に働く。
その間、長男にも完璧を求める。
長男が高校生の時、ママ友に「長男が孤立している」と言われ、夜中に寝ているところを覗くと身長180cmの長男が背を丸めて寝ていた。それを見てひざがガクッと折れる。
心理学などを学び直し、長男への対応も変える。
長男が希望校に入学できたときに、長男から「最近何にも言わないよね」といわれ、「信じていたから」と返事をすると長男がニヤッと笑った。
それから人を信じることの意味を分かった。
経営信条は、彼女の人生経験のもとに成り立っているのですね。
ポジティブチェンジの実践は、その方法論も大事ですが、リーダーがどのような考え方や姿勢で人に接していくかは、とても大切なのです。
コラムの書き手:株式会社Being & Relationシニアパートナー波多江嘉之